休み時間無しの、5・6時間目ぶっ通しの理科の実験が終わった後、恵理子はトイレに駆け込んだ。
実験室のある北棟は、文字通り北にあるから、日当たりが悪い。お陰で暗くて寒い。
トイレも例外ではなくて、暗くてじめじめしていてあまり行きたくはなかったのだが、本館のトイレに行くまで我慢は出来なかった。
お昼休みにジュース飲み過ぎたのがやばかったな。

用を足して一安心しつつ手を洗っていると、ぎぃっと物音がした。
「?!」
はっと振り向くと、4つ並んだ個室トイレの3番目のドアがゆっくりと開いて、中から生徒が出て来るところだった。

何だ、私だけかと思ってたら、他にも入っている人いたんだ。
そう思って、流しっぱなしにしていた蛇口を止めて振り向くと、さっき個室から出てきた生徒がすぐ側に居た。 hanakosan

「こんにちは」
そう言って、にっこり笑い掛けてきた。
「こ、こんにちは…?」
反射的に答えた後、恵理子は首を傾げた。

誰?この子。
同じクラスじゃないし…。

腰まである、綺麗な黒髪。
恵理子の様に、ミニスカートに仕立てた制服とルーズソックスではなくて、通常のロングスカートと足首までのスクールソックスという、校則の見本のような女生徒が、そこにいる。

挨拶を交わした後、教室へ戻るべくトイレのドアを開けようとした恵理子を、その生徒が呼び止めた。
「ねぇ、中田さんって、霊感あるって本当?」
これまで、何度と無く尋ねられた問いかけ。
そして、何度と無く口にした、その返答。
「ええ」
「へぇ。そうなんだぁ。じゃあ、御祓いも?」
「一応はね」
いつも通り、優越感を持ちながら答えたとき、女生徒が笑った。
そして、その笑顔のまま、

「じゃあ、これも見えるよね」

声と同時に、ざわっと空気が騒いだ気がした。
「え?」
さっきまでタイル張りだった、汚いトイレの床が変化した。
無数の手が床から生えて、恵理子の足下から絡みついてきた。