「霊感がある」と言うだけで、周囲の目が変わるのは何故だろう?
その『霊感』なるものが、実際にあるのかどうか、
科学的に証明されているわけでも、確かめる術も無いのに、
皆、「私は霊感ないの」「私はあるよ」と言い合っている。

でもね

霊の話は、霊を呼び集める。
例え「霊感あるの」と自負する人に、そいつらの姿が見えなくても。

そして、ここにも、自称『霊感少女』が一人…

「最近、ツイてないこと多いでしょ?」
「う、うん…!」
恵理子の言葉に、相手はびっくりしたように頷いた。
「だって、右肩に黒い影が見えるもの。その辺で変な霊を拾って来ちゃったのよ」
「や、やだ!本当?!そういえば、この前交通事故の事故現場通ったときから右肩が重い気がしたのよ」
「大丈夫。そんなに悪い霊じゃないから」
そう言って、恵理子は微笑んだ。

最近ツイてない?当たり前じゃない。
ツイてる日の方が珍しいのに。
黒い影なんて、何処にあるのよ。
右肩が重い? 今さっきからでしょ。

恵理子は、誰にも見られないように、忍び笑いした。

中田恵理子は、もともとは地味な生徒だった。
顔も性格も、クラスで目立つどころか、居なくても分からないほどの。
でも、皆の注目を集めたかった。目立ちたかった。

手っ取り早い方法を見つけた。

お喋りな友達と廊下を歩いているとき、ふっと後ろを振り向いた。
「どうしたの?」
友達が怪訝な顔をしたので、
「ねぇ、あそこに変な女の子がいるよ…」
と、廊下の隅を指さして言ってやったのだ。
勿論、そこには誰もいない。

そんなことを何回か、タイミングを見計らって繰り返している内に、「中田恵理子って、霊感がすっごい強いんだって」と言われるようになったのだ。
他のクラスでも、知らない子は居ないほどの。

「中田さんって御祓いも出来るんだって?この写真、心霊写真だって前に他の霊感のある人に言われちゃったんだけど…」
と、普段は余り口の聞かないクラスメートも、おずおずと頼ってくるようになった。
いつの間にか、御祓いもできるという風に噂が進化したらしい。
『心霊写真』として持ち込まれるのは、どう見ても普通の写真を、目を凝らして草の影やらに『人の顔』らしきものを見出した物ばかりなのだが。
そんな時は、
「あんまり邪気がないから、このままでも平気だと思うけど・・・。心配だったら、塩を盛って、3日間置いた後、燃やした方が良いよ」
と、もっともらしくアドバイスしてやる。
相手は、一も二もなく頷いて、「有り難う」と感謝する。

バカみたい。

「お前、ホントに霊だとかそんなもん見えるわけぇ?大嘘こいてんじゃねーよ」
たまに、男子生徒がからかいの言葉を投げつけてくるが、そんなときは極力静かな声で、
「信じる信じないは勝手よ。でもね・・・あなた、最近肩重くない?そのまま放っておいていいのかしらね…」と、意味ありげな発言をしてやる。
「バカ言ってんじゃねーよ」
その場は一笑に伏すそいつも、後になって、
「中田さぁ・・・。マジで肩重くなってきたんだけど、やっぱり、何か憑いてるのか?」
と、おずおずと聞いてくる。

毎日ゲームやったり、授業中不自然な恰好で居眠りしていれば肩も凝るでしょうよ。
なのに、全ては
「霊が取りついているから」
という事になる。

誰も見ることも出来ない『霊』という存在に全てを押しつけて、中田恵理子は一躍学年の有名人になっていた。

そして、いつも通り『御祓い』してあげた縁で仲良くなったクラスメート4人と霊にまつわる話で盛り上がっていると、誰かがこんな話を持ち出した。

「ねぇねぇ、中田さんは『花子さん』って見たことあるの?」

花子さん

学校に通う者なら誰でも知っている、有名な学校妖怪。
トイレの三番目におり、そのドアを三回叩いて「花子さん、遊びましょ」と声を掛けると「はーい」と返事が返ってくると言う。

「この学校にも居るのかなぁ?」
という質問に、「居るよ。私、見たことあるもん」と答えてやった。
予想通り、感嘆の声があがる。
「え~?!本当?あれって声だけかと思ってたぁ!」
「北棟の3Fトイレで、ついこの前見かけたの」

誰も、恵理子を疑おうとしない。
証拠を見せろとも言わない。
第一、証拠を見せたって、『霊感のない人』には見ることだ出来ないらしいから。

「どんな姿してるの?本とかじゃ、おかっぱ頭の小さい女の子って言うけど」
疑うことを知らない幼児のように、みんなが聞いてくる。
「私が見たときは、三つ編みした、小学生くらいの女の子だったよ。3番目のトイレの中から出てきた後、すーっと消えちゃったけど」
嘘は、滑らかに口から流れ出る。
「良いよねぇ。霊が見られて。あたしも見られるようになりたいなぁ」
羨ましげな声に、「こーゆーのって生まれつきなんだもん。私だって、見えない方が良いときだってあるよ」
虚構の才能に、少しばかりの優越感。

私はあんた達とは違う。
特別なのよ。